研究課題
抗酸菌細胞壁表層成分の宿主に対する生物学的活性を免疫原性(抗原決定基、液性および細胞性免疫)、炎症惹起や抗菌防御の視点から解析し、新規診断・治療候補として抗酸菌細胞壁糖脂質や蛋白質の可能性を探索した。代表的な非結核性抗酸菌感染症であるMycobacterium avium complex(MAC)特異的糖脂質ペプチド核を抗原とした血清診断はヒトMAC感染症に高い特異性や感度(90%以上)を示した。血清診断キット(試作)による多施設臨床試験が進行中である。結核菌や弱毒ウシ型結核菌(BCG)などから抗酸菌特異的DNA結合蛋白質(MDP1、分子量28kDa)を精製、遺伝子の塩基配列を決定、生物学的意義を解析した。抗酸菌表層MDP1は抗酸菌細胞質内及び細胞壁に局在していた。細胞質内MDP1はDNA/RNAや蛋白質合成を抑制し、抗酸菌の遅発育性に関与していた。細胞壁MDP1は宿主細胞表面に存在するヒアルロン酸に結合し、抗酸菌の宿主細胞への接着や侵入に関与していた。抗酸菌感染マウスは抗MDP1抗体やinterferon-γを産生した。すなわち、宿主はMDP1に液性及び細胞性免疫応答を示した。これらの結果から、MDP1を標的としたワクチン開発に着手した。MDP1単独やMDP1-DNA複合体でマウスを前免疫し、その後、結核菌を接種し、菌数や免疫学的指標からワクチン効果を評価した。MDP1-DNA複合体前投与により、宿主内生菌数を有意に減少させた。MDP1-DNA複合体の免疫学的作用機序を解析したところ、1)抗MDP1抗体および2)interferon-γ産生誘導が認められた。すなわち、MDP1を標的とした介入は接着や侵入など、感染初期の防御応答に寄与し、新規治療・予防戦略として有望である。
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