研究概要 |
申請者らは培養細胞にEPECを感染させると微小管ネットワークの破壊とアクチン繊維束の形成が顕著に誘導されることを見いだし、これらの細胞骨格の再編成はタイプIII分泌装置に依存した現象であることを明らかにした。さらに、エフェクター欠損株を用いた感染実験の結果より、EspGとEspG2がアクチン繊維束の形成、ならびに微小管の破壊を誘導するエフェクターであることを明らかにした。EspG/EspG2は微小管構成因子であるチュブリンに直接結合することをGSTプルダウン法にて確認し、精製EspG/EspG2を用いたin vitro微小管再構成系の実験より、EspG/EspG2は微小管破壊を誘導することを明らかにした。 微小管に局在する宿主側因子のGEF-H1は通常不活化型であるが、微小管から解離すると活性化型に変換され、RhoAを活性化する。GEF-H1のドミナントネガティブ型を発現させた細胞にEPECを感染させるとアクチン繊維束の形成は完全に抑制され、GEF-HImRNAに対するsiRNAを用いた実験によっても同様な結果が得られた。以上の結果、EspG/EspG2は1)微小管ネットワークを破壊することでGEF-H1を活性化し、2)そのGEF活性によりRhoA-ROCKシグナル伝達系が活性化され、3)アクチン繊維束の形成を誘導することを明らかにした。GEF-H1は上記シグナル伝達系の活性化の他に、腸管上皮の細胞間透過性(paracellular permeability, PP)を制御していることが報告されている。そこでMDCK培養細胞にEspGならびにEspG2を発現させPPを測定したところ、低分子物質のPPが亢進していることが明らかとなった。また、EspG/EspG2が誘導するPP亢進においては、タイトジャンクション(TJ)の破壊は認められなかった。病原細菌によるTJ破壊が下痢発症の一機序であると推察されているが、本研究ではTJ破壊のルートとは別に、PP制御を撹乱するエフェクターが存在することが初めて示され、「PPの脱制御による下痢惹起」という新たなモデルを提唱することができた。
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