研究概要 |
インフルエンザ菌(H.influenzae)のRND型AcrAB異物排出システムは、Macrolide薬をはじめいくつかの抗菌性化合物の排出に寄与している事が報告されている。今回、我々はAcrAB異物排出システムのさらなる機能の解明を目的にAcrAB過剰発現株における薬剤耐性への寄与について調べた。 H.influenzaeの臨床分離株からAcrA特異抗体を用いてAcrAB過剰発現株を検出した。次に、相同的組換え手法を用いてacrBの染色体上にKanamycin耐性遺伝子を挿入し、AcrAB過剰発現株二株からAcrB欠損株を作製した。これら過剰発現株二株とATCC10211、KW20株及びそれら由来のAcrB欠損株4株、計10株のMICを測定した。 これまでH.influenzaeのAcrAB異物排出システムは主にMacrolide薬などの疎水性の高い薬物の自然耐性に寄与するが、Quinolone,β-lactam薬の耐性には寄与しないとされてきた。しかし、今回の薬剤感受性測定において比較的疎水性の高いQuinolone,β-lactam薬に対し野生株二株由来のAcrB欠損株においても感受性化が確認された。さらにAcrAB過剰発現株においてはAcrB欠損により、Quinolone, Tetracycline,β-lactam薬とより多くの薬剤に対し感受性化し変化もより大きかった。さらにAcrA、B共に、過剰発現している事から、緑膿菌のMexes,淋菌のMtrCDE排出システムの過剰発現株で報告されている制御領域の変異を考え、AcrABタンパク質の上流に位置するregulator proteinであるAcrR領域の塩基配列を調べた。その結果、臨床分離のAcrAB過剰発現株において複数のアミノ酸の置換、もしくはアミノ酸の置換には至らないが、塩基レベルでの変異が複数見出された。一方、KW20株由来の過剰発現株においも、同領域にアミノ酸の欠失、置換が確認され、この領域の変異により異物排出システムの過剰発現が起こった事が、示唆された。これまで他の細菌に比べ耐性への寄与する薬剤が少ないとされたH.influenzaeのAcrAB異物排出システムが過剰発現により多くの薬剤の耐性に寄与する事は抗菌薬治療の見地からも注目すべき耐性機構であり、今後、AcrABの過剰発現メカニズムについてさらに解明していきたい。
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