研究概要 |
細菌細胞の抗菌薬耐性に関与する排出ポンプシステムは、そのアミノ酸組成に基づき主に4つに分類されている。それらはMFS(major facilitator superfamily)、ATP結合型カセットファミリー、RND(resistance-nodulation divisioin)ファミリーとSMR(small multidrug resistance)ファミリーであり、最近、5番目のMATE(multidrug and toxic compound extrusion)ファミリーが新たに加えられた。これらの中でRNDファミリーは、グラム陰性菌に特徴的なものであり、ペリプラスム間隙と内膜に融合して存在する蛋白(MFP)と外膜蛋白が協力して作動していることが知られている。臨床の現場で薬剤耐性菌、特に多剤耐性菌が増加して行く中で、これらの耐性菌と戦って行くためには抗菌薬耐性に関与する耐性機構の分子メカニズムに関する知識を蓄積しておく必要があると思われる。 今回、我々は「インフルエンザ菌の多剤耐性に関与する異物排出システム群の解析」をテーマとして3年間の科研費で検討した。インフルエンザ菌の全ゲノム配列はすでに解明されているので、このゲノム配列を使用して検索を行ったところ、大腸菌のacrABに類似の遺伝子が存在し、さらにAcrABシステムと協力して作用する外膜蛋白HI 1462を遺伝的、生化学的に同定することができた。さらにHI 1462欠損株およびAcrABに相当するHI 10894,HI 10895欠損株をマーカーとしてカナマイシン耐性を有する遺伝子を挿入することにより得た。そしてそれらの欠損株の性状を調べることにより、インフルエンザ菌における多剤耐性における役割について解析を行った。また、HI 894,HI 0895およびHI 1462蛋白に対する抗体を作成し、インフルエンザ菌の臨床分離株でその発現を解析することにより、多剤耐性における排出ポンプシステムの役割および疫学的な解析を行った。その結果、インフルエンザ菌におけるAcrAB多剤排出システムは研究室に保存されている菌株のみならず、野生株の全てにおいて常時発現していることが分かった。また、インフルエンザ菌の排出ポンプシステムの発現は、薬剤耐性に影響を与えるものであったが、他のグラム陰性の菌種に比べて影響が少ないものであったが、それはインフルエンザ菌が有するポーリン透過孔の大きさに由来するものと思われた。以上の結果、インフルエンザ菌のAcrAB異物排出システムが多くの薬剤の耐性に寄与する事は抗菌薬治療の見地からも注目すべき耐性機構であると考えられる。
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