C型肝炎ウイルス(HCV)の部分RNAゲノム自律複製単位(レプリコン)が複製している培養細胞を用いて、細胞性因子含めた複製複合体の構造とそれぞれの構成因子の複製反応における機能を解析することにより、HCVゲノム複製機構を分子レベルで明らかにすることを目的として研究をおこなった。まず本来のHCVゲノムにより近い構造をもつ、全ゲノムをふくむレプリコンを作成し、これが複製維持される培養細胞を樹立した。このレプリコンに関する種々の生化学的解析をおこない、細胞の内膜系によって包まれた構造をもつことなど、複製複合体の基本的な性質は部分ゲノムと等しいことを示した。また、複製活性を簡便に検出できるようにルシフェラーゼタンパク質を発現するようにデザインしたレプリコンを作成し、これを用いて様々なサイトカインや薬品のレプリコン複製に対する影響を解析することで複製複合体と細胞側因子の相互作用に関する検討をおこなった。その結果、新たにTGFベータが細胞の増殖抑制を介してレプリコンの複製を阻害すること、そしてMAPキナーゼシグナル系の阻害薬であるPD98059がHCVゲノム上に存在する内部リボソーム結合部位の活性化を介してHCVゲノムの翻訳を上昇させ、その結果複製活性を亢進することが明らかになった。さらに、これまでに我々はHCVゲノム複製に対して抑制的な効果を示す薬剤としてシクロスポリンA(CsA)を同定しているが、その作用機序に関する解析を進めた。その結果、CsAの標的分子がシクロフィリンB(CyPB)であることを突き止めた。さらにCyPBはHCVの複製複合体の主要因子であり、RNAポリメラーゼ本体であるNS5Bタンパク質と相互作用してそのRNA結合活性を上昇させることを明らかにした。このことからCsAによってCyPB活性が抑制されるためにHCVゲノム複製が抑制されると結論した。これらの結果を基にHCVの増殖を抑制する抗HCV薬剤開発のための新たな標的候補分子を示すことができた。
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