プリオン蛋白のN-末半分(PrP23-120)をプローブとして、yeast-two hybrid法によりマウス脳cDNAライブラリーをスクリーニングしPrP結合分子の同定を試みた。2回の別々のスクリーニングの結果、膜蛋白であるsynaptic glycoprotein 2(Gpsn2)のスプライシング・バリアントであるsGpsn2が同定できた。Gpsn2は、308個のアミノ酸からなり、脳以外にも様々な組織で発現している。しかし、今回我々がyeast-two hybrid法により同定したsGpsn2は、第4番エクソンがスプライシングを受けたため、N末領域の15アミノ酸が欠落していた。興味深いことに、sGpsn2にmycタグを付加し培養細胞に発現させると、著明な細胞死を誘導した。界面活性剤を用いて細胞を溶解しウェスタンブロッティングを行うと、sGpsn2は凝集体を形成しゲル内を移動できなかった。しかし、尿素で細胞を溶解しウェスタンブロッティングを行うと、この蛋白は様々に切断されたバンドとして検出できるようになった。つまりこれらの結果は、sGpsn2が細胞内で凝集体を形成し細胞死を誘導することを示唆した。このsGpsn2による細胞死または凝集体形成が15アミノ酸の欠落によるものなのか不明である。現在、正常のGpsn2の遺伝子をクローニングし解析を進めている。また興味深いことに、PrPを共発現させると、sGpsn2による細胞死を阻害することができた。プリオン病では、異常PrPが凝集体を形成し、正常PrPは減少している。今回の我々の結果は、欠損Gpsn2と同様に、異常PrPの凝集体が神経細胞死を来たし、正常PrPはその細胞死のシグナルを阻害している可能性を示した。
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