HIV-1マトリックス蛋白質(MA)は、感染後期過程におけるウイルスのアセンブリー、細胞質膜へのtargeting、エンベロープ蛋白質のウイルス粒子への取り込みなどに重要であることが知られている。しかしながら、MAのウイルス感染前期過程(特に侵入直後の脱殻、逆転写)における役割についてはまだよくわかっていない。そこで我々は感染後期過程への影響が少ないと考えられるMA変異体(6VR、49LD、86CS)を選び、後期過程への影響を検証した後、HIV-1感染前期過程に対する影響を種々の方法を用いて検討した。シュードタイプウイルスを用いたsingle round感染系や逆転写過程の各過測定するための種々のプライマーを用いたリアルタイムPCR法の結果から、MA変異体49LD、86CSがウイルス侵入後の逆転写に至る過程(いわゆる脱殻)、6VRが逆転写そのものに欠損を有していることが強く示唆された。 また、感染前期過程に欠損を有する変異体ではこの過程に関与する宿主因子とMAとの結合親和性が野生型とは異ることが予想される。そこで、MAに結合する宿主因子をMA強制発現細胞抽出液からの免疫沈降と質量分析の組み合わせで探索し野生型とMA変異体で比較した。その結果、逆転写に欠損を有する変異体(20LK)を用いたtagged-MS法によるMAと相互作用する宿主因子の探索においてtRNAシンセターゼ複合体構成メンバーがその候補として同定された。現在、相互作用の詳細や相互作用のウイルス複製における役割などを検討中である。
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