研究概要 |
本研究では、HTLV-1の感染が原因で発症する成人T細胞白血病(ATL)の発症予防法および治療法を開発する目的で、HTLV-1感染ヒトTリンパ球を個体内に持つ、HTLV-1感染キャリアマウスモデル系の開発を試みた。 1.ヒト化マウス(SCID-hu)の作製:ヒト臍帯血より精製したCD133陽性造血幹細胞を、γ線照射処理したNOD-SCID/IL2R γ-chain knock-out(NOG-SCID)マウスの大腿骨骨髄内に注入・移植することで、高率に(平均72.3%)CD45陽性ヒト血球を有するヒト化マウスを作成した。骨髄中では、CD20,CD33,CD34,CD14,CD41等ヒト骨髄球およびリンパ球特異的抗原陽性細胞の分化が正常に進んでおり、脾臓内においても、正常個体と同程度のヒトTリンパ球の分化が観察された 2.ヒト化マウス腹腔内へのMT-2細胞移入によるHTLV-1感染:同ヒト化マウス腹腔内に、γ線照射により増殖を阻止したHTLV-1産生細胞株MT-2を移入することでHTLV-1の感染を試みたところ、脾臓内ヒトTリンパ球におけるHTLV-1プロウイルスの組み込みと共に、脾臓の肥大を伴うCD4(+)T細胞数の増加が観察された。さらに、同CD4(+)T細胞の9割以上は、ヒト感染個体における主要なウイルスリザーバーであり、且つATL細胞の特徴でもあるCD4(+)CD25(+)細胞であった。 以上の結果より、NOG-SCIDマウスへのヒト臍帯血移植により作成したヒト化マウスに、HTLV-1産生細胞株を移入することで、HTLV-1感染ヒトT細胞を有するマウスの作成に成功し、さらに、ATLに類似した感染T細胞の異常増殖を再現することが出来た。今後、ATL発症予防法および治療法開発への応用が期待される。
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