(1)Xタンパク質による電子伝達系阻害機構の解析 これまでに、B型肝炎ウイルス(HBV)のX遺伝子が産生するXタンパク質がミトコンドリアに局在し、ミトコンドリアの膜電位の低下、ATP産生の減少、活性酸素生成等を引き起こすことを明らかにしてきた。得られた知見より、Xタンパク質はミトコンドリア電子伝達系を阻害していることが推測される。そこで、Xタンパク質が電子伝達系のどのステップを阻害しているのかを生化学的手法により解析した。培養細胞およびマウス肝臓より単離したミトコンドリアを用いたin vitro系で、電子伝達系複合体の酵素活性を測定する方法を用いて、in vitro系にリコンビナントXタンパク質あるいはその変異体を加え、電子伝達系のどの過程に作用しているかを調べた。 (2)Xタンパク質のタンパク質導入ドメインの同定 HBV Xタンパク質はHIV TATタンパク質と同様に、培地に加えることによって細胞に導入されることを明らかにした。Xタンパク質の場合、そのタンパク質導入能は、感染細胞以外にもXタンパク質が伝播し、bystander効果による肝炎症状の増悪化をひき起こしている可能性もあり、その性質の解明は臨床面でも重要である。そこでさらに、Xタンパク質の変異体を作成し、大腸菌で発現、精製後、導入に必要なドメインの同定を行った。タンパク質導入能を持つタンパク質は、HIV TAT以外にも今までに数多く報告されてきているが、これらタンパク質の多くはウイルスのタンパク質である。なぜウイルスタンパク質が細胞内導入能を持つのが多いかその理由は不明であるが、進化上興味深いことである。
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