研究概要 |
塩酸イリノテカンCPT-11の薬剤耐性に乳がん耐性蛋白BCRPの発現が関与していることを,小細胞肺がん細胞株PC-6とその耐性株PC-6/SN2-5を対象にアンチセンス法で証明した。また,この耐性を導いたBCRPの誘導発現はこの遺伝子の発現調節領域の脱メチル化によって起こることを証明した。そして,メチル化の有無(メチル化では発現せず,非メチル化では発現する)を簡便に検出できるmethylation-specific PCR (MSP)法を開発した。 このMSP法の有用性を検証するために,BCRPを発現している非小細胞肺がん株NCI-H441,NCI-H460,NCI-H358と発現していないNCI-H69の細胞株で,DNAを用いたMSP法の結果とRT-PCRによるmRNAの発現およびWestern blottingによるタンパク質の発現が逆相関していることがわかった。つまり,小細胞肺がんでも非小細胞肺がんでもBCRPのメチル化の有無をMSP法で解析することで,BCRPの発現が予測可能であることを細胞株(in vitro)で証明した。 次に,肺がんや大腸がん患者のがん組織(in vivo)を対象に行った。当大学の遺伝子解析倫理委員会の承認を得た後,肺がん手術標本組織46例,大腸がん手術標本組織28例からDNAとRNAを抽出した。mRNAとタンパク質レベルでBCRPの発現を認めた症例は,肺がんで15例(32.6%),大腸がんで11例(39.3%)であった。これらの発現を認めた26例と発現を認めなかった10例に対して,細胞株と同様の実験を行った。結果も同様で,MSP法の結果とBCRPの発現が逆相関していた。以上から,in vitroでもin vivoでもDNAを用いたMSP法により,薬剤耐性に関与するBCRPの発現をmRNAおよびタンパク質の両レベルで予測できることを証明した。 最後に,生検組織は肺がんで3例,大腸がんで2例の試料を集め,MSP法の結果は出ている。しかし,まだ症例数が極端に少ないため,臨床情報(抗がん剤の治療効果)との相関解析は行っていない。今後も症例数を増やしていく予定である。最終的には遺伝子診断の確立をめざす。
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