研究概要 |
我々は、コリン作動性神経系の機能低下により学習・記憶障害を生じるモデル動物に対して、ダイノルフィンAなどのκ-オピオイド受容体作動薬が、学習・記憶障害を改善することを報告してきた。1995年に発見された脳内神経ペプチドであるノシセプチンは、ダイノルフィンAと相同性が高く、また、これまでの我々の研究結果から、ダイノルフィンAと同様に、コリン作動性神経系の機能障害モデルに対し改善作用を示すことを明らかにしている。本年はまず、メカミラミンによる学習・記憶障害モデルラットに対する低用量のノシセプチンの作用を検討した。 ノシセプチン10fmol/ratをラット側脳室内投与すると、メカミラミンによる学習・記憶障害が改善され、この作用は、ノシセプチン受容体であるopioid receptor like-1(ORL1)受容体拮抗薬、[NPhe^1]ノシセプチン(1-13)NH_2を投与しても拮抗されなかった。脳内微量透析法において、メカミラミン(49μmol/kg,s.c.)による海馬内でのアセチルコリン遊離量の減少は、ノシセプチン(10fmol/rat,i.c.v.)の投与により有意に改善された。 次に、ORL1受容体ノックアウトマウスを用いて、ステップダウン型受動的回避学習法およびY字型迷路法により学習・記憶機能の検討を行った。ノシセプチンは、ノシセプチン受容体であるORL1受容体がノックアウトされているにも関わらず、1fmol以下の用量で、スコポラミンによる学習・記憶障害を有意に改善した。 以上の結果より、ノシセプチンはORL1受容体を介さない機序でコリン作動性神経機能障害による学習・記憶障害を改善する可能性があることを明らかにした。
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