研究概要 |
我々は、コリン作動性神経系の機能低下が生じるモデル動物に対して、dynorphin Aなどのκ-オピオイド受容体作動薬が、学習・記憶障害を改善することを報告してきた。また、dynorphin Aと相同性が高いnociceptinが、nociceptin受容体であるopioid receptor like-1(ORL1)受容体を介さない機序でコリン作動性神経機能障害による学習・記憶障害を改善する可能性を示唆した。今回は、ORL1受容体ノックアウトマウスを用い、関連する遺伝子発現の変化をRT-PCR法で検討した。ORL1受容体ノックアウトマウスの海馬では、対照群と比較して、κ_1-オピオイド受容体mRNAの発現量が減少し、逆に、dynorphin前駆体タンパクやnociceptin前駆体タンパクのmRNA発現量が有意に増加に増加していた。ORL1受容体ノックアウトマウスの前脳皮質ではdynorphin前駆体タンパクおよびnociceptin前駆体タンパクmRNAの発現量が有意に増加していたが、κ_1-オピオイド受容体mRNAの発現量は増加傾向に留まった。これら変化は、β-amyloid peptide(25-35)を投与したマウスでも同様にみられた。ORL1受容体ノックアウトマウスにβ-amyloid peptide(25-35)を投与すると、投与1週間後の海馬におけるdynorphin前駆体タンパクのmRNA発現量が有意に減少した。対照群であるC57BL/6Jマウスにβ-amyloid peptide(25-35)を投与すると、有意ではないが海馬におけるdynorphin前駆体タンパクおよびκ_1-オピオイド受容体タンパクのmRNA発現量にも減少傾向がみられた。これら変化で、ORL1受容体ノックアウトマウスにおけるnociceptinによる記憶障害改善作用を説明できないため、ORL1受容体を介さない機序でコリン作動性神経機能障害による学習・記憶障害を改善する機序について,さらに詳細に検討する必要がある。
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