我々は、コリン作動性神経系の機能低下が生じるモデル動物に対して、dynorphin Aなどのκ-オピオイド受容体作動薬が、学習・記憶障害を改善することを報告してきた。また、dynorphin Aと相同性が高いnociceptinが、opioid receptor like-1(ORL1)受容体を介さない機序で学習・記憶障害を改善する可能性を示唆した。ORL1受容体ノックアウトマウスの海馬では、κ「オピオイド受容体mRNAの発現量が減少し、逆に、dynorphin A前駆体タンパクやnociceptin前駆体タンパクのmRNA発現量が有意に増加していた。これら変化は、β-amyloid peptideを投与したマウスでも同様にみられた。ORL1受容体ノックアウトマウスにβ-amyloid peptideを投与すると、投与1週間後の海馬におけるdynorphin A前駆体タンパクのmRNA発現量が有意に減少した。遅発性の学習・記憶障害モデルとして、拘束水浸ストレス負荷モデルおよびリポポリサッカライド(LPS)投与により誘発される学習・記憶障害モデルを用い、dynorphin Aおよびnociceptinの作用を検討した。拘束水浸ストレスを負荷すると、負荷5日後に有意な短期記憶障害が惹起され、7日後においても受動的回避学習が障害された。この障害は、アセチルコリン分解酵素阻害薬であるtacrineや、抗うつ薬であるdesipramineにより有意に寛解された。また、catechinなどの抗酸化作用を持つ化合物の連続投与によっても障害が寛解された。一方、LPSを側脳室内に投与することにより誘発された遅発性の学習・記憶障害に対し、catechinの連続投与によって障害が寛解された。今後、今回用いたモデルマウスに対するこれら神経ペプチドの効果を検討する予定である。
|