研究概要 |
1)フィブリノゲン(Fbg)の組み立て・分泌におけるγ鎖387Ile残基の役割について研究した。 Fbgの組み立てと分泌に重要な働きをするγ鎖387IleをArg, Leu, Met, Ala, Aspに置換させた実験を行い、γ鎖387残基の性質の重要性を検討した。その結果、前4種はFbgの組み立てと分泌に低下は認められなかったが、Aspにおいては著しい低下が認められた。このことから、γ鎖387番のアミノ酸の性質およびその変異によってもたらされる388番以降411番までのアミノ酸の立体構造の変化によりFbgの組み立てと分泌が影響されることが明らかになった。さらに、分泌された4種類のFbgの機能解析においては、γ鎖387番アミノ酸の性質およびその変異による388番以降411番までのアミノ酸の立体構造の変化は、フィブリン繊維が太くなる性質と、凝固第XIII因子によるγ鎖398Glnとγ鎖407Lysの架橋結合反応の起こりやすさにも影響することが明らかになった(以上の研究結果の論文はBLOODに掲載された)。 2)Fbgの組み立て・分泌におけるBβ455Arg役割について研究した。 昨年の研究でγ鎖387Ile残基に相当するBβ鎖455Argが存在しないとFbgの組み立て・分泌が起こらないことを明らかにした。そこで本年はBβ455ArgをIle, Asp, LysとAlaに変異させた発現ベクターを作製し、これらをAα鎖とγ鎖を発現しているCHO細胞に導入する実験を行った。しかし、いずれの変異体においてもFbgの組み立て・分泌を研究するのに用いることができる細胞株が樹立できなかった。今後再検討する予定である。 3)Fbgのフィブリンへの転換とその重合におけるBβ111Serの役割について研究した。 研究テーマと直接関係しないが、Bβ111Serが欠損した異常Fbg症のヘテロ患者を発見した。変異部位はFbgのcoiled-coil領域といわれる部分であり、欠損によるFbgの組み立て・分泌への影響はなかった。しかし、Fbgのフィブリンへの転換とその重合反応のイオン強度依存性が正常のものに比較して著しく大きいことが明らかになった(以上の研究結果の論文はClinica Chimica Actaに掲載された)。興味あることにBβ111Serに相当するAα80Asnの欠損症例も報告されていることから、今後はγ鎖の相当部位である55Serとあわせた3種のリコンビナント変異Fbgを作製して、それらの重合反応のイオン強度依存性を比較する予定である。
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