サイログロブリン遺伝子異常症はまれな疾患と考えられ、全例が症例報告の対象となってきたが、サイログロブリン遺伝子異常症の臨床的特長が明らかになるにつれ、発見件数は飛躍的に増加した。この傾向は今のところ日本のみで、海外ではいまだに稀な疾患と考えられている。当科で解析した日本での全症例は、30家系、40症例ある。サイログロブリン遺伝子異常症患者では、甲状腺ホルモン合成障害を代償するため、甲状腺腫は徐々にではあるが着実に増大していく。小児例を除く成人例30例では全例に巨大な甲状腺腫を認め、その中で23例(77%)は手術を受けている。手術も複数回受けている症例が多く、甲状腺組織を一部残す術式をとると残存部の甲状腺は必ず増大してくる。その上、手術例23例のうち11例(48%)に甲状腺癌の発症を認めた。最近、甲状腺乳頭癌はRETキメラ遺伝子やBRAF遺伝子変異により発症することが解明された。そこで、検査可能な5例について、RETキメラ遺伝子の存在とBRAF遺伝子変異を検討したところ、RETキメラ遺伝子を有している症例はなかったが、2例にBRAF遺伝子の活性化変異を認めた。一例はVal599Gluで甲状腺癌に最もよく認められる変異であったが、他の一例はLys600Glnで過去に一例だけ大腸癌に認められた稀な変異であった。非癌部には両変異は認められなかった。以上より、サイログロブリン遺伝子異常症患者では甲状腺癌を合併することが多く、これは甲状腺細胞が分裂する過程で、BRAFのような癌遺伝子に変異がはいり、癌化したものと考えられた。
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