研究概要 |
クレチン症は甲状腺の発生障害または生まれつきのホルモン合成障害で起こる。サイログロブリン遺伝子異常で起こるクレチン症は稀と思われてきたが、軽症患者でもサイログロブリン遺伝子異常によることが報告されて以来、日本では42家系53症例が発見された。日本で新生児マススクリーニングが始まったのは1979年のことであるが、1979年以降の出生例16例のうち12例はマススクリーニングで発見されている。しかし、1979年以前の出生例では幼小児期より認められる甲状腺腫を主訴とし、甲状腺機能は正常もしくは軽度機能低下程度である。27種の遺伝子異常のうち、C1264RとC1077Rが最も頻繁に発見されている。C1264Rは日本全国より発見されるが、C1077Rは西日本のある部落のみに発見される。SNP解析の結果、C1077Rは創始者効果によるものと結論された。熊本県の統計によれば、一般人口でのサイログロブリン遺伝子異常症の発症頻度は1/67,000である。サイログロブリン遺伝子異常症の病因はサイログロブリン蛋白の細胞内輸送障害で、変異サイログロブリン蛋白は小胞体内に蓄積される(小胞体貯蔵病)。組織検査では、濾胞内のコロイドは空虚で、膨大化した小胞体が細胞質をおおいつくしている。培養細胞に変異サイログロブリン蛋白を発現させると、変異サイログロブリン蛋白は培養液に分泌されない。サイログロブリン遺伝子異常症の最大の特徴は徐々に増大する甲状腺腫で、そのために26例が手術を受けた。うち11例に甲状腺癌が認められた。原因はBRAF遺伝子の活性化体細胞変異で、分裂する甲状腺濾胞細胞にBRAF遺伝子変異が起こり、癌化したものと推論された。
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