医薬品の体内動態を正確にしかも迅速に解析する方法の開発は、薬物治療を行う上で極め重要な診断技術である。特に、高齢者においては、代謝能が個々人で大きく変動するため、血中の薬物濃度測定(TDM)が必要とされている。現在、我が国は急速な高齢化が進行しつつあり、近い将来個々人に対する薬物治療をより適切に行う必要がある。すなわち、ベッドサイド診断や診療所においてテーラーメイド医療を行う時代が到来することが予想される。このような課題を解決するには、より簡単にしかもコンパクトな次世代型分析装置の開発が必要である。マイクロチップ電気泳動法は、DNAや医薬品の分離法として利用されている。この内、低分子薬物の分析は、チャンネル内に発生する電気浸透流を利用した分離法で行われている。その方法としてシラノール基を有する石英やガラス製のチップが用いられているが、これらは未だ高価であり、汎用性に欠けるなどの問題がある。そこで本年度は、核酸用として開発され、市販されているプラスチック製チップを用いて、陰イオン性界面活性剤をコーティング剤とする電気浸透流の発生について検討した。 【結果および考察】プラスチック製のチップでは、電気浸透流の発生は観測されなかったが、チャンネル内壁を界面活性剤でコーティングすることで電気浸透流の定常的な発生を得ることができた。種々の界面活性剤で検討したところ、3.4×10^<-2>mol/Lドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を用いたときに最も再現性のよい電気浸透流の発生を確認した。本法を生体成分であるアルギニンとシトルリンの分離に適用したところ、分離度4.4の良好な分離が得られた。
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