正常ヒト血清トランスフェリン(Nor-TF)の糖鎖は95%以上が2本鎖複合型糖鎖であるが、肝癌細胞株Hep-G2細胞が分泌するトランスフェリン(Hep-TF)は、多分岐のAsn結合型糖鎖上に多数のsialyl Lewis X(sLeX):Neu5Acα2-3Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAc-Rを発現している。本研究ではsLeX高発現Hep-TFを用いてNK細胞株KHYG細胞上のレクチン様レセプターの検索とその機能を解析した。 1)FITC標識Nor-TFとHep-TFのNK細胞株KHYG細胞への結合量をフローサイトメトリーで計測した結果、Hep-TFがNor-TFに比べて約2倍高い結合がみられた。また、抗TFレセプター抗体で前処理すると若干の結合の低下が見られたが、Hep-TFがNorTFに比べて2倍高い結合がみられた。 2)KHYG細胞上に発現しているレクチン様レセプター(NKG2C、NKG2D、CD94、CD161)の抗体で前処理後に、FITC標識Hep-TFとNor-TFの結合をフローサイトメトリーで計測した。その結果、Hep-TFの結合はいずれの抗体処理でも結合が低下したが、Nor-TFの結合の低下はみられなかった。 3)これらのレクチン様レセプターとsLeXとの結合を直接的に証明するため、NKG2DとCD94遺伝子を単球系細胞株U937細胞に発現させ、Hep-TFとの結合をフローサイトメトリーで計測したところ、NKG2DとCD94発現細胞は野生株に比べて明らかな結合の増加がみられた。 4)この結合が、NK細胞の細胞傷害活性を誘発するかをみるために、Hep-TFを固相化したプレート上でKHYG細胞を30分間培養した細胞のホモジネートをSDS-PAGEで分離後、抗リン酸化チロシン抗体でチロシンリン酸化タンパク質を検出した。その結果、17kDaのタンパク質のチロシンリン酸化の増加が観察され、このリン酸化の増加はNKG2D抗体処理でもみられたが、抗CD94抗体処理では検出されなかった。 以上の結果から、sLeX糖鎖がNK細胞上のレクチン様レセプター(NKG2C、NKG2D、CD94、CD161)と結合すること、sLeX糖鎖とNKG2Dとの結合がNK細胞の細胞傷害活性を誘発することが明らかとなった(現在投稿準備中)。現在、実際に細胞傷害活性への影響の有無を検討中である。
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