研究概要 |
本研究は、発がん物質として知られる様々な化学物質の曝露がスプライシング反応に及ぼす影響を調べるとともに、それによって産生される選択的スプライシング変異体を検出・解析し、スプライシング変異体の生成と発がんとの関連性を評価するものである。本年度には以下の実験を行った。 1.ミニ遺伝子を用いたin vitroスプライシング反応系で、発がん性有害重金属の投与がスプライシング効率に及ぼす影響を調査した。10μM Cdの投与は亜鉛キレート剤の投与で停止した第2段階スプライシング反応を約72%回復させ、50μM以上の濃度では再び阻害した。10μMHgでは約4%回復されたが、Co, Cu, Mg, Mnによる回復は見られなかった。このようなCd特有の作用は、スプライシングの恒常性を混乱させ、選択的スプライシング変異体を生成するなど、スプライシング撹乱作用をもたらす可能性を示唆する。 2.Cd投与HeLa細胞におけるスプライシング関連因子Slu7、SF3a60、SF3a66、SF1、ZNF269のmRNA発現量の変化を調べた。このうち、ZNF269 mRNAは10μM Cd投与により経時的に増加した。ZNF269は選択的スプライシングと関連していることが報告されており、Cdによる発現量の増加はスプライシング変異体の生成を誘導する可能性があると考えられる。 3.さらに、differential display法を用いて、Cd投与により発現量が変化する数種のホメオボックス遺伝子を検出した。10μM CdによりHOXA7,HOXA9,HOXB6,HOXC8,HOXC4,HOXC9,HOXC10遺伝子の発現が減少し、HOXB8の発現は増加した。これらホメオボックス遺伝子の発現変動は発がんとの関連性が報告されており、Cdの発がん作用に関わる可能性を示唆した。
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