日本脳炎ウイルス(JEV)は、ウイルスの分離地をもとに4つの遺伝子型(G1〜4)に分類されている。日本国内では、従来分離されていた株の遺伝子型は、Chenらの分類ではG3に属するとされている。しかし、我々は東京都で分離されたJEVのgenotypingを行い、1994年以降に分離されたJEVは全て従来のG3ではなく、タイ北部の株が属するG1であることを明らかにした。そこでこのG3からG1への流行株の交代が地域的なものかどうかを明らかにするため、九州地域を中心に、国内各地で分離されたJEVのgenotypingを行った。 現在まで、大分、長崎、沖縄、大阪、石川、それに東京の各地で1965-2001年に分離された23株について、JEV遺伝子のC-prM遺伝子領域(240塩基)をダイレクトシーケンス法で解析した。系統関係はClastal Wを用い近隣結合法で推定した。沖縄株は以前の解析結果を用いた。 その結果、1991年までに分離された株は全て従来のG3に属したが、1994年以降分離された大分、長崎、東京、石川株は全てG1に属する株であった。データベース上に公開されているG1型株と今回解析したG1株を比較したところ、これら日本国内で分離されたG1株は1)1990年代のタイ北部株と祖先を共有する、2)韓国やマレーシアにも見られる、3)ごく近縁な株の集団に属するが、4)同じ時期にオーストラリアで分離されたG1株とは異なる系統であることが示唆された。 現在までの系統樹解析の結果では、同一時期に日本国内で分離されたJEVは、ほぼ均一な遺伝子を持っていることが示唆される。沖縄では1992年にG3株が存在したことが判明している。これらのことから、日本で伝播するJEVの主な遺伝子型は1993年から94年にかけて交代したと考えられた。
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