研究概要 |
研究目的:ヒトの日常摂取カドミウム(Cd)レベルを含む低濃度Cd摂取と妊娠出産哺乳による母体の骨代謝に及ぼす影響を、Cd摂取の中断の有無による回復の可能性を検討するものである。また、これに付随して、胎仔・新生仔へのCdの母仔間移行と骨代謝や生殖器関連の内分泌機能への影響を明らかとすることを目的として研究を実施した。 研究実施計画:Wistar系雌ラットに、1,2,5mg/kgの各Cd量を6日/週、定量的に経口投与し、雄ラットと交配し、妊娠出産哺乳の負荷を掛けたうえで、哺乳の有無の違いとCd投与の中断の有無によるCdの母体骨代謝に及ぼす影響を検討した。Cdの母仔間移行とその生体影響並びにCdの母仔間移行のメカニズムにおける金属結合タンパク質メタロチオネイン(MT)の役割について検討を加えた。 研究成果 1.妊娠哺乳負荷と慢性Cd摂取により、母体大腿骨の骨密度と骨強度の低下し、骨吸収指標の尿中デオキシピリジノリンの排泄増加が5mgCd/kg群で認められ、比較的低濃度のCd摂取が哺乳負荷による母体の骨代謝に修飾影響を及ぼすことが明らかとなった。 2.子宮組織や胎盤組織免疫化学的組織染色で、MTの顕著な誘導合成は認められなかったが、既存のMTがCdを捕捉結合し、Cdの毒性作用を軽減し、Cdの胎児への移行を抑制する働きをしていることを示唆する結果を得た。一方で、血液・胎盤関門に係わる合胞性栄養膜細胞のMTに結合されないCdが微量ながら胎盤を通過し胎児の肝臓により多く蓄積し、必須元素である銅代謝を撹乱し胎児の成長等に影響している可能性を示唆する結果を得た。 3.母体の骨代謝は妊娠出産哺乳により著しく影響を受けるが、低濃度のCd摂取が加わると顕著に骨密度の低下が引き起こされることが明らかとなった。しかし、Cd摂取の中止により回復することが認められた。Cdの生体影響の評価や許容摂取量の設定においては性差や生理負荷条件の違いを配慮する必要性が示唆された。
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