研究課題
基盤研究(C)
本研究は水銀蒸気曝露に対する高感受性集団(胎児、新生児、メタロチオネイン(MT)合成低下)の神経行動毒性について検討した。胎生期における水銀曝露を受けたMT(I, II型)欠損マウス(MT(-/-))およびの対照(野生型)マウス(MT (+/+))のオープンフィールド(OFT)では、雄性MT(-/-)マウス群の活動量の低下が認められた。中心に滞在する割合も雄性MT(-/-)マウスで、水銀曝露群は対照群に比べ有意に低かった。受動的回避反応試験での受動回避学習における成績については、雌性T (-/-)マウス群に学習獲得の低下を認めた。モリス水迷路での空間学習については、水銀曝露をうけた雌性MT (-/-)マウスに間学習の獲得過程で、遅延が認められた。胎生期に水銀蒸気曝露をうけたMT (+/+)、MT (-/-)マウスは雄・雌に係わらず対照群に比べ、脳および腎臓の水銀濃度は高値であった。発育期(授乳期)における水銀曝露は、出産後に新生仔と母親を水銀蒸気曝露装置内で離乳時まで曝露を行い、3ヵ月後に行動試験を行った。0FTでは雌性MT (-/-)マウス群に活動量の低下や探索行動の低下が観察された。受動回避反応試験での嫌悪学習に対する成績は雌雄MT (+/+)、MT (-/-)マウスともに対照群と曝露群との間に有意な差は認められなかった。モリス水迷路での空間学習についても雌雄MT (+/+)、MT (-/-)マウスともに対照群と曝露群との間に有意な差は認められなかった。曝露直後の新生仔の脳内水銀はMT (+/+)、MT (-/-)ウスともに曝露群が対照群に比べ、有意に高値を示した。しかしながら、曝露群のMT (-/-)マウスの脳内水銀濃度は雌雄ともにMT (+/+)マウスより有意に低値を示した。新生仔の脳のDNAマイクロアレイによる遺伝子発現の変動の解析を行った結果、対照群の遺伝子と比較したとき、特に曝露を受けたT (-/-)マウスに多くの遺伝子に発現量の変動が見られた。以上の結果より、胎生期における水銀蒸気暴露にうけた場合、MT (-/-)マウス群に活動量の低下、空間学習および学習獲得の低下が認められた。発育期(授乳期)においても水銀蒸気曝露によりMT (-/-)マウス群に活動量の低下が認められた。これらのことより、MT-Iおよび-IIは胎生期や発育期において水銀による神経行動毒性の軽減に何らかの役割を果たしているものと思われる。さらに、発育期における水銀蒸気曝露はMT (+/+)マウス群より、MT (-/-)マウス群において脳の多くの遺伝子の発現量に変動に見られ、今後、水銀に対するMT (-/-)マウスの神経行動毒性機構を解明するうえで重要な情報を提供するものと考える。
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