研究概要 |
近年,学童集団接種による高齢者の超過死亡抑制効果やインフルエンザ脳症が社会的に大きく取り上げられ、小児へのワクチン接種が再評価されている。しかし児本人のワクチン効果は研究によって有効率に差があり,その要因として流行株の変化やワクチン株との一致性,各研究における発症の定義や診断方法の違いなどがあげられる。本研究の第一の目的は,2000年以降迅速診断キットが急速に普及し診断精度の高い研究が可能となった本邦において,同一フィールドにおける複数シーズンの継続研究により,流行株やワクチン株との一致性も考慮に入れた児本人のワクチン効果を検討するとともに,児のワクチン接種の同居高齢者者への波及効果を明らかにすることである。本研究の第二の目的は,発現が危惧される新型インフルエンザ対策の基盤整備として,地域における有効なインフルエンザ流行防止対策の策定・実施に向けた伝播様式の解明および発生状況の適切な把握と早期に情報還元できるシステムを構築することである。第一の目的に対しては,2003-2007年の4シーズンのワクチン効果を検討し,ワクチン接種による児本人の発症予防効果はおおむね有効であったが,シーズンによって変動が認められるという結果を得た。また、児のインフルエンザ発症は同居高齢者の発症と関連することが示されたが,児のワクチン接種による高齢者の発症予防・重症化防止効果は明らかではなかった。第二の目的に対しては,大規模離島においてフィールド内の約90%の医療機関との連携によりインフルエンザ地域発生情報公開システムを構築し,得られた患者情報からGISによる発生地図作成と疫学解析を実施した。疫学解析からは流行拡大様式にはシーズンによる差が認められ,精度の高いモデリングに向けてはさらなるデータの蓄積が必要と考えられた。発生地図は毎週インターネットにて公開し地域への情報還元を行っている。
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