本研究の目的は、ノーマライゼーションの理念の下に、耳の聞こえない者が安心かつ制約無しに健康診断を受診できる環境を構築することである。 耳の聞こえない者が健康診断(以下「健診」)を受診する場合、相手からの指示や説明を理解することや自分自身の意思を相手に伝えるというコミュニケーションが困難であるため、健診を受診することに対する心理的な障害が生じている。その障害を軽減するために胃部エックス線検査用コンピュータ支援情報提供システム(術者からの指示を検査台に設置したモニタ上に手話アニメーション、文字およびジジェスチャーを映し出すことにより統合的な情報を提供する)を開発した。本研究では、システムの改良と評価を主目的としており、平成16年度は(1)操作側の負担を減らすために音声認識技術を応用した入力方法の検討、(2)受診者の安全と死角をなくすためのモニタ設置場所の検討、(3)受診者が安心して検査を受けられるために予め検査手順を手話と文字とで説明するビデオコンテンツの作成を実施した。 平成17年度は昨年度に改良したシステムを使用して、聴覚障害者による評価と改良を行った。健診受診者となる聴覚障害者に対してはインフォームドコンセントを十分に行ったうえで実施した。なお、本研究の内容については昭和大学医学部倫理審査委員会の承認を得ている(承認番号258号)。 本システムを使用して、聴覚障害者対象の健康診断を実施し、検査時間の測定、受診者および術者である診療放射線技師からの意見聴取を行った。検査時間は1人当たり10〜15分、音声認識の精度をさらに向上させることと、受診者が指示と異なる動作をしたときの修正の指示を簡単にすることが課題として挙げられた。また、手話がよくわからない聴覚障害者(主に中途失聴者や難聴者)に対しては手話アニメーションを削除して文字を大きくしたものも用意したが、これについては文字が読みやすくなったと好評を得た。
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