思春期以降のダウン症候群患者(以下DS)の健康問題について解析した。 (1)2004年12月に東京都内のDS早期療育保育施設卒園者、東京都渋谷区のDS相談外来受診患者、静岡県DS親の会会員のうち、10歳以上のDS男女の保護者に郵送アンケートを実施した。その内容はDS本人の思春期発来時期、身体発育状況、思春期以降の健康問題のほか、両親の体格、兄弟姉妹(以下Sib)の思春期発来時期と身体発育状況などである。アンケート総数562のうち、122の回答を得て、回答率は21.7%であった。DS総数は121人、うち女62人(51.2%)、男59人(48.8%)であった。sib総数は121人、うち女66人(54.6%)、男55人(45.5%)であり、DSと年齢や男女比に明らかな差はなく、比較に適していた。DSとSibの思春期発来時期を比較し、女では、初経・乳房の発育時期はDSとSibで差がなかった。女では腋毛・陰毛の発育はDSの方が遅かった。男の思春期発来はほとんどの兆候でDSとSibの差がなく、異性を意識しはじめる時期のみDSが遅かった。総じてDSの思春期発来時期はSibと比べて遅れていないことが明らかとなった。成人期の疾患では肥満が男女とも約半数に見られ、ついで睡眠時無呼吸が多かった。男性では女性より高尿酸血症が多く、女性では甲状腺疾患が多かった。 (2)長期に診察している思春期以降のDS男性患者12人の保護者から口頭ならびに文書で、造精能の研究のインフォームド・コンセントを得た。うち6人の夢精付着と思われるサンプルの精子の有無を位相差顕微鏡で調べ、2人で精子の存在を顕微鏡下で確認した。4人で血中テストステロン、LH、FSHを測定し、4人全員が正常テストステロン値、LH値微増、FSH高値を示し、乏精子・無精子症のパターンと類似していた。20歳代後半では、夢精の回数が減少し、造精能低下が疑われた。 親や療育者はダウン症候群患者の思春期が遅れることなく発来するという観点から思春期の準備を心がけることが望まれる。
|