1.所属研究室の剖検例から、死後48時間以内で、心臓性突然死と考えられた20例につき、非心臓性突然死10例を対照に、乳頭筋レベルの左室心筋を採取し、さらに房室伝導系を含上部心室中隔心筋を採取し、単位面積あたりの小動脈数を算出すると共に、内皮細胞のマーカーであるCD31抗体を用いて、単位面積あたりの内皮細胞数を計測した。対照例のデータと、比較検討を行ったところ、心臓性突然死の一部で、上部心室中隔内小動脈数、および内皮細胞数が対照例より高度に減少している個体が描出された。また、突然死例の一部で、対照群の平均プラス標準偏差を上回る狭窄を呈する個体が描出された。 2.非外傷性の原因で心肺停止を来たし、心肺蘇生術を施行されたものの蘇生術に反応しなかった80剖検例の洞房結節、房室伝導系を含んだ上部心室中隔の病理組織標本を作製し、対照30例と比較したところ、心肺蘇生例の7例において、刺激伝導系内に新鮮な出血、損傷を認め、その内訳は洞房結節出血3例、His束を含む房室弁輪部出血1例、左脚内出血2例、房室結節動脈内膜破綻に伴う動脈解離1例であった。対照群にはこれらの出血、損傷はなく、心肺蘇生術より、稀ではあるものの心刺激伝導系損傷が、心肺蘇生術の重要な合併症の1つである可能性が示された。 3.極めて異なる転帰を取った左冠状動脈口無形成の2例(一例は突然死、一例は80才を超えて剖検で偶然発見された症例)につき、側副血行路を含めた冠状動脈の走行、その組織形態を比較検討し、側副血行路の径、走行形態が本奇形の予後に重要な影響を与えていることを示した。 4.インフルエンザ感染後急死した若年者の剖検例において、房室結節動脈の狭窄、その還流域である上部心室中隔の早期虚血を見出し、このような剖検例においてはRyhe症候群による急死との異同を慎重に鑑別するべきであることを示した。
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