1)p53遺伝子解析によるヒトと非ヒト霊長類の識別および進化、分岐:p53遺伝子第5エクソン、第5イントロンおよび第6エクソンの378bpの塩基配列を決定し、ヒトと15種類のサル類の塩基配列およびアミノ酸配列とを比較した。チンパンジー、ピグミーチンパンジーにおいて第5エクソンの81番目(G→A)と84番目(C→T)の2ヵ所に塩基置換があり、ゴリラでは第5エクソンの10番目(G→A)と114番目(C→T)の2ヵ所に塩基置換がありコドン129にアミノ酸置換(Ala→Thr)があった。上記の3種類を除く12種類のサル類においても塩基置換が6ヵ所から63ヵ所あり、ヒトとの鑑別は可能であった。今回決定したヒトとサル類におけるp53遺伝子の塩基配列の相同性を比較したところ、ヒトと類人猿の平均相同性は約98.8%であった。ヒトと旧世界ザルでは平均約96.4%、新世界ザルでは平均約94.1%、原猿類では平均約86.2%の相同性を示した。平均距離法(UPGMA)で分子系統樹を作成して、霊長類16種類の系統関係を解析したところ、従来の分類とは矛盾しなかった。 2)p53遺伝子イントロン7の多型と霊長類の進化:ヒトp53遺伝子14181番目とその20bp下流の14201番目に相等する第7イントロンの72番目(C→T)と92番目(T→G)の塩基に多型が認められた。72番目でC/Tは92番目でT/Gであり、C/CはT/T、T/TはG/Gであった。この事から72番日と92番目は完全連鎖不平衡の状態にあり、ハプロタイプはC-T ; T-Gであった。その頻度はC-Tホモが57.14%、T-Gホモが7.62%、C-T/T-Gヘテロが35.24%であり、アリルの頻度はC-T:0.744、T-G:0.245であった。ヒトに多型が認められる第7イントロンの72番目の塩基は6種類の類人猿はすべてにおいてC/Cホモであり、また92番目はT/Tホモであった。この事からヒトでみつかったC→TおよびT→Gの塩基置換は、類人猿からヒトに進化、分岐した後に起こったものと考えられる。
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