中国安陽の商代遺跡およびメキシコ・テオティワカン遺跡より出土した埋葬古人骨に見られた様々な損傷の成傷器および成傷機序について、法医病理学的な分析を行なった。 1)商代遺跡(殷墟)出土古人骨の損傷 当時の民衆墓と考えられる場所から出土した約200体の人骨のうち、当時の青銅武器により形成されたと推測される損傷が8体15ヶ所で認められた。その多くは銅鏃によると考えられる骨欠損(貫通創)および鋭器(銅戈や銅矛など)によると考えられる骨切痕であった。これらのうち、頭蓋骨前頭部に青銅武器の破片が突き刺さっていた成人男性の損傷について、X線CTなどを用いた詳細な3次元解析を試みたところ、この青銅武器破片の由来が当時の数種類の青鋼武器の中でも、銅戈である可能性が高いことが明らかになった(2005年、Forensic Science International誌に掲載予定)。このような青銅武器の破片から成傷器を同定した例はこれまで報告例がなく、考古学的に見ても大変意義のある成果と考えられる。 2)メキシコ・テオティワカン遺跡出土古人骨の損傷 テオティワカン遺跡の「月のピラミッド」および「羽毛の生えた蛇神殿」より出土した生贄と考えられる約50体の人骨において、損傷と考えられる骨切痕が4体5ヶ所で認められた。これらのうち、2体2ヶ所で認められた損傷は、当時の武器である石器で形成されたものとしては、その形態が極めて特異的であるため、その成傷器および成傷機序を解明するべく、獣骨を用いた再現実験等を実施したところ、これらの損傷の形成機転につながるデータを得ることができた(現在研究継続中)。
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