研究概要 |
エタノール(EtOH)はアルコール脱水素酵素によりアルデヒド,さらに酢酸へと代謝されるが,一部はグルクロン酸抱合を受けてエチルグルクロナイド(EtG)になる.このEtGはEtOHより長期にわたり検出し得るため,飲酒の証明に有効といわれている.前回確立したEtG測定法を用いて,ラットにEtOH(4g/kg)を投与後1,4,8及び24時間後に血清と尿中のEtOHとEtGを測定した.EtOHとメタンフェタミン(MA.5mg/kg)を同時投与し,相互の薬物濃度への影響も併せて検討した.EtOHはいずれの群でも24時間後には血清,尿からは検出されなかったが,EtGは24時間後でも検出された.EtOHとMAの同時投与によりEtGの生成は抑制される傾向を示した.EtOHは投与後1時間後から肝臓,腎臓,脳でMA同時投与により代謝が抑制される傾向を示した.その結果,EtGの生成も減少傾向を示した.一方,MAも同様にEtOH同時投与により代謝の抑制を受け,水酸化体の生成が抑制された.次に,ラットに同量のEtOH及びMAを投与し,1時間後に,頚椎脱臼により屠殺し,死体を20℃のフラン器に放置した.1日,3日,7日後にそれぞれの化合物を測定した.20℃でビニール袋に入れ放置するという今回の実験条件では7日後でも肝臓,腎臓,脳でEtOHは検出された.脳は腐敗の影響を最も強く受け,腐敗によるEtOH,n-プロパノールの生成量が大きかった.また,EtGも検出され,MA同時投与により減少傾向を示した.一方,MAも,今回の放置条件では検出され,EtOH同時投与により,水酸化体の減少傾向が認められた.このように,EtGを測定することにより,EtOHが検出されない場合でも飲酒の証明が可能なことが明らかとなった.加えて,EtG濃度はMAの同時投与により影響を受けることが明らかとなった.今後,本研究で明らかにされたエチルグルクロナイドの測定法,EtOHとMA同時投与による相互作用,腐敗等の影響を礎に,EtOHが検出されない場合に,どこまで正確に飲酒を証明し得るかを検討して行きたい.
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