研究概要 |
虐待児童では胸腺の退縮が観察されること、また胸腺退縮にアポトーシスが関与することが報告されていることから、アポトーシスに関連する情報伝達物質が虐待の有無を示すマーカーとなりうることが予想されるので、本研究計画では、アポトーシスに関連するシグナルのうち特にFas, Fyn kinaseに注目して検討をおこなうことにしている。 本年度はFyn kinaseの虐待モデル(慢性の絶食ストレス)における関与について、Fyn kinaseのノックアウトマウスを用いて検討をおこなった。コントロール動物(Wild type)に慢性の絶食ストレスを負荷すると胸腺重量の著明な減少が観察され、同時に胸腺細胞のうちCD4+CD8+ (Double Positive)細胞の割合が特に減少していることが判明した。このことは慢性の絶食ストレス負荷により胸腺細胞にアポトーシスが生じ、その結果胸腺が退縮したことを示している。これに対し、Fyn kinaseノックアウトマウスでは、Wild typeに観察された変化は全く検出されなかった。さらに、アポトーシスを組織学的に検出するTUNEL染色をおこなったところ、Wild typeの胸腺では皮質の著明な萎縮とともにTUNEL陽性シグナルが多数検出されたのに対して、Fyn kinaseのノックアウトマウスではTUNEL陽性シグナルは絶食負荷しなかったマウスの胸腺と同程度の結果を示した。このことは、Fyn kinaseは胸腺細胞のアポトーシスシグナルに関与しており、慢性の絶食ストレス負荷により誘導される胸腺退縮現象に重要な役割を果たしていることを示している。
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