研究概要 |
パラコート(PQ)の中毒発現機序を解明する目的で遺伝子発現変化を中心に検討し,以下の結果を得た。 1)ラット肺での抗酸化酵素及びグルタチオン(GSH)に対する影響を検討した結果,GSH合成酵素の発現が誘導されてGSHが増加してもGSH peroxidaseが変化しないためGSHがOH radical scavengerとして真に機能しないことを示した。 2)ラット腹腔内投与で,肺での活性酸素関連遺伝子(thioredoxin,GSH S-transferaseなど)の経時的促進効果がみられ,とくにheme oxygenase 1(HO-1),NADPH-oxidoreductase 1では免疫組織学的検討で気管上皮細胞に陽性反応を得た。また肺でのCYP familyにも性差と関連する興味ある知見が得られた。すなわち,雌肝に特異的または多いCYP種が強く低下した。 3)腹腔内投与の腎でも同様な遺伝子発現の変化が観察され,とくにmetallothionein 1,HO-1の発現は強く,免疫組織学的検査所見とも一致した。しかし,この上昇レベルは24h以内に消失し,続く2回目投与では1回目に比べて上昇効果は遺伝子発現も蛋白レベルでも有意に低いことが分かった。この結果は,PQ障害に対する抵抗蛋白の産生が弱まり毒性が発現することを示唆した。 4)マウスにPQ溶液を点鼻投与し肺に直接PQを曝露することで,ヒトPQ中毒の病態に酷似するモデルを作製した。 5)PQ肺モデルを用いて,中毒初期"destructivephase"における遺伝子発現の変化を45遺伝子について検討した結果,炎症やapoptosisに関連する遺伝子の多くが1日以内にmaxを示し,他方fibrosisに関連する遺伝子は曝露5日目でmaxを示した。また肺サーファクタントや細胞外SODなどは曝露初期からその発現が低下することが分かった。
|