研究概要 |
1.【目的】 ヒトでは嗅覚神経系の障害はそれほど意識されないことが多いが,痴呆症では嗅覚の神経変性が著しいことが知られている.また嗅球を摘出した動物では情動の変容を伴う学習障害モデルとして用いられている.このように嗅覚系は高次機能との関わりが深い感覚器であるものの,高次機能の調節機構への関与や嗅覚障害に対する治療薬の開発研究は乏しい.本研究は嗅覚障害による記憶学習障害に焦点をあて,それに対して治療効果を発揮する漢方処方・生薬を探索し作用機序および活性物質を明らかにすることを目的としている. 2.【本研究の実施事項】 (1)嗅覚障害モデルマウス:硫酸亜鉛点鼻により嗅覚障害モデルマウスを作成した.このマウスでは受動的回避学習試験で記億学習能の低下が見られた.この記憶学習障害はコリンエステラーゼ阻害剤フィゾスチグミンの投与で改善したことから,コリン作動性神経系が関与することを示した. (2)嗅球内の神経伝達物質の量的変化:嗅覚障害マウスの嗅球内モノアミン含量の変化を経日的に調べた結果,ドパミン,DOPAC(3,4-dihydroxyphenylaceticacid)が特徴的に低下し,ノルアドレナリン,5-HTには変化がなかった.アセチルコリン合成酵素(ChAT)活性を測定したところ,嗅覚障害マウスでは大脳皮質のChAT活性が低下することが示唆された. (3)嗅覚障害モデルマウスに対して,加味逍遙散(KSS)を投与し記憶学習能低下に対する効果を検討したところ,嗅覚障害による経日的な記憶学習能の低下をKSSは抑制した. 嗅覚障害により記憶学習障害がおこり,その障害はコリン作動性神経系が一部関与することがわかった.またKSSは嗅覚障害による高次機能低下を改善する可能性が示された.
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