研究概要 |
消化器癌の中で最も難治癌の膵癌において抗癌剤ゲムシタビンは第1選択薬として使用されているが,ゲムシタビンが膵癌細胞に取り込まれDNA伸長反応を停止させたのちどのように細胞死を誘導するのかそのメカニズムについてはほとんどわかっていない。我々は以前にゲムシタビンがJNKやERKシグナルの活性化を誘導せず(Tanno S et al., Cancer Res 2001, Tanno S et al., J Cell Biochem 2002, Tanno S et al., Cancer Res 2004),ストレス応答性MAPKであるp38MAPKを選択的に活性化することを明らかにし,p38MAPK活性化がゲムシタビンによる細胞毒性増加に重要な役割を果たすことを報告してきた(Habiro A et al., Biochem Biophys Res Commun 2004)。本研究ではゲムシタビン誘導細胞毒性におけるp38MAPKの役割をさらに明らかにするため,ドミナントネガティブ型p38MAPK発現ベクターを作成し膵癌細胞株に強制発現させた。本研究ではp38MAPKの選択的阻害剤によってゲムシタビンで誘導される細胞死が抑制されること,ドミナントネガティブ型p38MAPKを遺伝子導入した膵癌細胞ではゲムシタビンによるp38MAPK活性化の抑制がみられ細胞死がブロックされることを見いだした。加えて,p38MAPKはゲムシタビンで活性化されるのに対して細胞生存シグナルAKTキナーゼ活性の変化は認められなかった。以上のことより,ゲムシタビンによって誘導される膵癌細胞の細胞毒性においてp38MAPKはアポトーシス促進因子として重要な役割を担うことが示唆された。p38MAPK活性化を促進する薬剤はゲムシタビンの治療効果を増強すると考えられる。
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