PTEN欠損マウスの肝臓では10週齢で中心静脈周囲の肝細胞の細胞質に脂肪滴、40週齢で肝細胞の風船様腫大、マロリー体、小葉内炎症性細胞浸潤、傍ジヌソイド領域の線維化、腺腫、74〜78週齢で肝癌が発症し、組織学的にも自然経過においてもヒトNASHとよく似た病変を呈し、PTEN欠損マウスはヒト非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の動物モデルと考えられる。PTEN欠損マウスの脂肪肝は、PTEN遺伝子の肝細胞における欠損に基づくPI3 kinaseの活性化を背景に核転写因子PPARγとSREBP1c、さらに、これらの核転写因子の下流のaP2、adipsin、adiponectin、SCD1、FAS、ACCの発現増加に伴い肝細胞における中性脂肪の合成が促進され発症する。脂肪性肝炎は、中性脂肪の過剰に蓄積した肝細胞において脂肪酸のβ酸化を促進する酵素であるAOX、L-PBE、PTLの発現亢進に伴い酸化ストレスが増加し細胞障害が惹起されたためと考えられる。また、腸内細菌叢由来のLPSに対するPTEN欠損マウスの肝臓の感受性亢進も肝炎の発症・増悪に関与している。一方、過剰に蓄積した酸化ストレスによる肝細胞における酸化的DNA障害とAktやMAPKの活性化に基づく肝細胞の増殖能の亢進が相加的に作用し腺腫・癌が発症したと考えられる。また、PTEN欠損マウスの肝臓ではオレイン酸の増加とステアリン酸の減少も腫瘍形成に寄与していると考えられる。さらに、PTEN欠損マウスと野性型マウスの肝細胞に由来するRNAを用いて行ったcDNAマイクロアレイからPTEN欠損マウスの肝臓における炎症、線維化、癌化にはTh1細胞を活性化するサイトカインであるosteopontinが重要な役割を果たしていることが示唆された。ヒトNASHの癌組織と非癌組織を用いた免疫組織学的解析から、ヒトNASHにおいてもPTENの発現低下と酸化ストレスの蓄積がNASHの進展と発ガンに関与している可能性が示唆された。したがって、ヒトNASH症例の中には上記で示したPTEN欠損マウスの肝病変発症機序と同じメカニズムに基づいて肝病変を発症する症例が存在すると考えられる。
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