研究概要 |
本研究では、腸管上皮細胞の分化機構およびこれとリンクした上皮細胞の免疫調節機能について解析することを目的とし、本年度においては以下のごとく大きな研究成果が得られた。ヒト腸管上皮細胞を用いてヒト細胞におけるIL-7産生機構を初めて詳細に報告し、a)IL-7遺伝子上流のIRF-Eを介した発現制御がIL-7産生に重要であること、b)この機構にはIRF-1/IRF-2の両者が各々独立し関わることを示したのみならず、c)ヒト大腸組織でIRF-1が杯細胞に優位な局在をもって発現することを明らかにし、上皮細胞分化が免疫機構とリンクする可能性を提示した(Mol Cell Biol,2004)。さらに、ヒト大腸上皮細胞におけるIRF-1標的遺伝子をマイクロアレイ法で網羅的に解析し、複数の遺伝子群を新たに同定した。これらの結果のうち、中でも免疫プロテアソーム構成分子発現に対するIRF-1機能に着目し、実際LMP7を含むこれら分子発現にIRF-1が中心的役割を担うことを示した(論文投稿中)。これらの成績は、IRF-1が杯細胞に強く発現する事実と併せ、種々の上皮細胞系列において、杯細胞が特異な免疫調節機能を担う可能性を示唆するものであり、さらなる解析を継続中である。ヒト大腸上皮細胞の分化機構を、特に遺伝子発現制御のレベルに焦点を当て検討した。その結果、Notchシグナルによる分泌型細胞分化制御機構、新規Wntシグナル経路の発見とその細胞分化に及ぼす機構など、複数の知見を新たに見出し現在詳細に解析を継続中である。腸管上皮分化を免疫機能再構築という観点でとらえる本研究は、特に杯細胞分化とリンクした免疫機能獲得という点で着実に成果を挙げており、今後の発展により、機能的再構築を伴った組織再生誘導という再生医療アプローチに基盤を提供しうる可能性を十分に有するものと期待される。
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