研究概要 |
本研究では,αーフェトプロテイン(AFP)をはじめとするフコシル化糖蛋白とその酵素学的背景であるα1-6フコース転移酵素(AFT)およびV型グルコサミン糖転移酵素(GnT-V)の発現を指標として,肝癌組織中の糖鎖転移酵素遺伝子群を含む高発現および低発現遺伝子をスクリーニングし,遺伝子ならびにその糖蛋白の同定を試みた.次に,これらの遺伝子群の抑制ならびに活性化による肝癌細胞biological behaviorの調節手技の確立を同時に思考した.前段階として,AFT活性抑制による糖鎖構造変化と,それに伴う肝癌細胞の浸潤動態の変化を細胞系列を樹立することによって評価することを行った.AFTアンチセンスRNAによる発現抑制実験として,本酵素のmRNAの861〜874塩基,5'-CACTCATCTTGGA-3',に対するセンスおよびにアンチセンス合成RNAを用いた.HepG2細胞を48時間培養後の培養上清中のフコシル化AFP分画は80%以上の高値であった.FnGENE 6(Roche, USA)を用いて前記のセンス,アンチセンスRNAをHepG2細胞にリポフェクションにより導入した24,48時間後のフコシル化分画は,それぞれ,77%,80%(センス),80%,71%(アンチセンス),であり,アンチセンス導入群の48時間後の培養上清中でフコシル化が抑制されている事が示された.次にα16FTに対するsmall interfering RNA(siRNA)の持続発現により,AFPのフコシル化が安定して抑制されるsiRNA持続発現株の樹立を試みた.α16FT mRNAの1002塩基のAA配列に続く19塩基配列からなる配列を,polymerase-III H1-RNA gene promotorの制御下に,ポリA配列を欠き3'端にUU突出を有するRNAが転写されるベクターであるpSUPERretro(OligoEngine, USA)にクローニングしたまた,配列特異的発現抑制を確認するため,19配列の第9塩基をGからAに置換した変異配列も同時にクローニングした.そして,これらのベクターをHepG2細胞に感染させ,持続発現株を樹立した.現在,同様の操作をGnT-Vについて行っている.
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