研究概要 |
末梢血より比重遠心法を用いて末梢血単核細胞を,また手術標本の粘膜組織より酵素法で細胞浮遊液を得た後,比重遠心法で粘膜固有層単核細胞を分離した.これらの細胞からmagnetic cell sorting (MACS)を用いて末梢血及び粘膜固有層CD4陽性T細胞を分離した.FITC標識抗CD4抗体によるフローサイトメトリー解析で純度はそれぞれ99.0±0.3%,98.5±0.4%であり,MACSにより末梢血及び大腸粘膜組織より純度の高いCD4陽性T細胞を効率的に分離することが可能であった.単球・マクロファージ系のアクセソリー細胞の非存在下の培養では各種マイトジェン及び可溶性の抗CD3,抗CD28抗体による細胞増殖と活性化(IL-2受容体α鎖の発現)は比較的軽度であった.そこで抗CD3,抗CD28抗体を固相化したwellで末梢血及び粘膜固有層CD4陽性T細胞の経時的な培養を行った.末梢血及び粘膜固有層CD4陽性T細胞のIL-2受容体α鎖及び膜型TNFαの発現は96時間でピークがみられ,抗CD3抗体単独の固相化よりも抗CD3及び抗CD28抗体の固相化により高い陽性率を示した.またこれらの活性化マーカーの発現率は末梢血CD4陽性T細胞よりも粘膜固有層CD4陽性T細胞において高値を示した.培養上清中のIFNγ活性も活性化マーカーと同様な傾向を示し,今回用いた抗CD3,抗CD28抗体による末梢血及び粘膜固有層T細胞の活性化はアクセソリー細胞を必要としない有用な実験系であることが明らかにされた.クローン病の治療に使用されている抗TNFαモノクローナル抗体(インフリキシマブ)を固相化抗体で活性化した粘膜固有層CD4陽性T細胞に添加するとアポトーシスが誘導され,炎症性腸疾患患者において各種薬剤の治療効果をin vitroで予測できることが示唆された.さらにインフリキシマブ治療をクローン病患者13例に行い,治療前後で臨床活動度(CDAI)は13例中12例(70点以上改善した有効例は6例,46.1%)で改善し,血清TNFα,IL-6,sIL-2R濃度は低下した.CDAIが70点以上低下した有効例と非有効例とを比較検討したところ,治療前に血清TNFαの高い症例でinfliximabの非有効例が多く,血清TNFα濃度の測定は,インフリキシマブ治療の有効性の予測の一助となる可能性が示唆された.
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