研究概要 |
大腸腫瘍において,間質から分泌される因子が腫瘍細胞のβ-カテニンの細胞内局在に影響するか否かを検討した. 1.まず大腸癌の間質で発現が増強している因子を明らかにするために,約50例の大腸腫瘍患者から得た臨床検体から,laser capture microdissectionシステムを用いて組織の切り出しを行った.腫瘍の辺縁浸潤部と中心部を区別し,また上皮と間質を区別して切り出しを行い,RT-PCR法により擬似c-DNAライブラリーを作成した.その後,DNAアレイ法を用いて発現量に差がある因子を網羅的に検討した.その結果,大腸腫瘍の辺縁浸潤部の間質でIL-1β,TNF-α等のTh1サイトカイン及びCOX-2の発現が上昇していた. 2.次にこれら諸因子が大腸癌細胞に与える影響を検討するため,大腸癌培養細胞株に対し,IL-1β,TNF-α等のサイトカイン及びCOX-2の媒介する最終産物であるプロスタグランジンE2を加え,β-カテニンの細胞内局在を検討した.ある種のTh1サイトカイン添加により,β-カテニンの細胞内局在が細胞質から核へと変化することが観察された.一方,プロスタグランジンE2単独の添加では,β-カテニンの細胞内局在は変化しなかった.これらのことから,間質由来の炎症性サイトカインが,大腸癌細胞におけるWNTシグナリング・カスケードとクロストークする可能性が示唆された. 3.間質におけるCOX-2の発現亢進機序も併せて検討した.線維芽細胞を大腸癌細胞及び良性腸管上皮細胞と共培養すると,線維芽細胞周辺は溶存酸素濃度が低下し,同時にCOX-2産生が亢進した.局所的な低酸素環境を改善すると,良性腸管上皮細胞との共培養でのみ,線維芽細胞からのCOX-2産生は低下した.そのため大腸腫瘍発育進展の初期段階,すなわち腺腫等では,局所的な酸素濃度の低下が間質におけるCOX-2の産生に寄与することが示唆された.
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