研究概要 |
大腸腫瘍において、間質から分泌される因子が腫瘍細胞におけるβ-カテニンの細胞内局在に影響するか否かを、前年度に引き続き検討した。 1.平成17年度の検討により、大腸腫瘍の辺縁浸潤部の間質においてインターロイキン6(IL-6)の発現亢進を確認した。β-カテニンが細胞質に存在する大腸癌細胞Caco-2,Lovoに対し大容量のIL-6を添加したが、β-カテニンの細胞内局在は変化しなかった。これら細胞ではIL-6シグナルを細胞内で伝達するSTAT3の活性が恒常的に亢進していたため、β-カテニンが核に存在するSW480細胞を用いてdominant negative STAT3ベクターおよびJAK阻害剤AG490によるSTAT3の活性阻害を試みた。その結果、β-カテニンは核から細胞質に移行し、Tcfレポーター活性の減弱とともにSW480細胞の増殖は抑制された。これらの結果から、大腸癌細胞においてSTAT3経路がWNTシグナルに影響を与えることが示された。 2.平成17年度の検討で、大腸腫瘍の辺縁浸潤部の癌細胞および間質の一部でgrowth arrest specific gene-6 (Gas6)の発現が亢進していた。Gas6及びその受容体Axlを発現する大腸癌細胞DLD-1に対しリコンビナントGas6を添加すると、PI3K/Akt経路の活性化を介して細胞増殖は亢進し、アポトーシス抵抗性が認められた。同様の傾向は、Axlの細胞外ドメインを用いたdecoy投与によっても観察された。これらの結果から、Gas6はAxlを介したオートクラインおよびパラクライン機構により、大腸癌進展に寄与する可能性が示唆された。 以上のように、腫瘍の間質由来の諸因子が種々の経路を活性化して、β-カテニンなどを介して大腸癌の進展に影響を及ぼすものと思われた。
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