研究概要 |
6週齢の雄性のSDラットに対して発癌物質azoxymethane(AOM)(15mg/kg,腹腔内投与,週一回,2週)を投与した.ラットは餌の脂肪の差によりコントロール群,10%コーン油(ω-6系多価不飽和脂肪酸)群,10%オリーブ油(ω-9系1価不飽和脂肪酸)群,10%牛脂(飽和脂肪酸)群,10%魚油(ω-3系多価不飽和脂肪酸)群の5群に分けた.AOM投与群では12週でACF発生数の増加を認めた.ACF数はコーン油群,牛脂群では増加し,オリーブ油群,魚油群では低下を認めた.AOM投与群44週では腺癌の発生を認めたが,その数はACFと同様の傾向を認めた.非腫瘍部粘膜におけるBrdU uptake,PCNAstainではAOM投与群において明らかな増殖能亢進を認めた.AOM非投与群におけるcyclin D1,細胞内β-cateninはコーン油および牛脂摂取群において発現増加を認め,オリーブ油摂取群,魚油摂取群において発現の低下を認めた.コーン油摂取群においては大腸粘膜におけるWnt5aの発現が亢進しており,牛脂摂取群においてはWnt2,Wnt3の発現の亢進を認めた.大腸粘膜の脂質酸化度はコーン油摂取群・牛脂摂取群において増加し,オリーブ油摂取群・魚油摂取群では低下を認めた.8-OHdG免疫染色においては対照群に比し牛脂摂取群・コーン油摂取群において8-OHdG陽性細胞数は増加し,オリーブ油摂取群・魚油摂取群において減少を認めた.n-6系多価不飽和脂肪酸を多く含むコーン油あるいは飽和脂肪酸を多く含む牛脂の長期摂取は非腫瘍部大腸粘膜の酸化ストレスの増加によるDNA傷害により大腸癌の誘導に関与しており,またWnt signaling pathwayの亢進による非腫瘍部大腸粘膜の増殖能亢進により大腸癌の誘導・進展に関与している可能性が示唆された.一方オリーブ油・魚油の長期摂取はその反対の作用を有する.
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