研究概要 |
我々はこれまでに、H.pyloriが胃粘膜上皮細胞に接着すると、H.pyloriの病原因子CagAが、H.pyloriから胃粘膜上皮細胞内へと注入され、上皮細胞内でチロシンリン酸化を受けることを認めた。また、チロシンリン酸化されたCagAが、細胞の分化や増殖に重要な役割を担う細胞質内脱リン酸化酵素SHP-2と特異的に結合することを発見した。さらに我々は、CagAのSHP-2結合部位に東アジア株に特異的なアミノ酸配列を認め、東アジア型のCagAは、欧米型のCagAに比べSHP-2との結合が強く、東アジア型のCagAを持つH.pylori感染は、胃粘膜萎縮が強いことを認めた。一方、H.pyloriは細胞空胞化毒素(VacA)を有し、vacA遺伝子に多型性が認められ、signal sequenceにs1(さらにs1a, s1b, s1cの亜型が存在)とs2のゲノタイプが、中間領域にm1とm2のゲノタイプが認められ、vacAゲノタイプs1a/m1株でVacA毒素活性の高いものが多い。胃癌死亡率の異なる福井県と沖縄県でH.pylori株のvacA遺伝子のタイピングを行ったところ、福井株はほとんどが東アジア特有のs1c/m1で、m2株は認められなかった。一方沖縄株ではs1a/m1が78.6%、s1b/m2が16.7%、s2/m2が4.7%と欧米に似た結果であった。日本の胃癌株は全て東アジア型のs1c/m1であった。したがって、vacAゲノタイプがs1c/m1で細胞空胞化毒素活性の強い株の感染が、胃粘膜萎縮さらに胃癌の危険因子であると考えられた。今回、cagAとcagEをさらにvacAの遺伝子解析を行い、病態との関係を検討した。福井県と沖縄県の臨床分離株を用いcagA、cagE、vacAの全塩基配列を決定し、系統樹解析と病態との関係を検討したところ、消化性潰瘍株の10%(1/10)がcagA及びvacAが東アジア型を示したのに対し、慢性萎縮性胃炎の77.2%(17/22)及び胃癌(1/1)株が東アジア型を示した。したがって、東アジア型のcagA及びvacAを持つ株の感染は萎縮性胃炎、ひいては胃癌発症に関与することが示唆された。
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