H.pylori株のゲノム解析を無作為に選んだ8個の構造遺伝子について塩基配列を検討したところ、世界の地域による差及び病態による差は認められなかった。一方、病原因子であるcagAや細胞空胞化毒素遺伝子vacAは、世界の地域により大きく異なり、特に、慢性萎縮性胃炎と胃癌の発症が高い、日本、韓国、中国と欧米との違いが認められ、塩基配列による樹系図では、欧米と東アジアとは異なったbranchに位置し、H.pyloriの起源が異なると考えられた。また、cagPAI内遺伝子の変異とcagPAI外の遺伝子vacAの変異との関係を検討したところ、cagPAI内のcagAとcagEの樹系図の相関よりも、cagAとcagPAI外のvacAの相関が強く、東アジア型のcagAのゲノタイプでslc/ml型のvacAのゲノタイプが相関していた。したがって、遺伝子変異においても、病原因子の遺伝子の変異は何らかの環境や病態に対する適応が関与すると考えられた。CagAの多型の臨床的意義を解析するため、胃癌死亡率の異なるアジア地域の菌株のCagAを検討した。福井株65(胃炎36、胃癌29)、沖縄株49(胃炎38、胃癌11)、中国株25(胃炎20、胃癌5)、ベトナム株20(胃炎10、胃癌10)、タイ株26(胃炎15、胃癌11)を用い、cagA遺伝子の塩基配列を決定したところ、胃癌死亡率と東アジア型CagAの頻度との間に相関が認められた。福井、中国、ベトナム株の全ては東アジア型のCagAであった。一方、沖縄では胃炎株の15.8%はCagA陰性、15.8%が欧米型、68.4%が東アジア型であり、胃癌株は全て東アジア型であった。タイでは胃炎株の86.7%が欧米型、13.3%が東アジア型で、胃癌株の36.4%が欧米型、63.6%が東アジア型であった。
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