研究概要 |
今年度の研究では、肝細胞癌切除サンプルを対象として肝炎ウイルスの感染の有無と発癌メカニズムについて解析した。まず血清HBs抗原、HCV抗体の有無によりサンプルを分類した。癌抑制遺伝子p16のメチレーションによる不活化がC型肝炎ウイルス感染例では発癌以前に起こっていることが明らかとなった。一方、C型肝炎ウイルス非感染例では担癌肝組織においてメチレーションが起こっている例は少なく、癌のみでp16のメチレーションによる発現低下が起こっていた(Intervirology)。次にミトコンドリアDNAの変化を検討した。ミトコンドリアDNAは局所の炎症によって生じる活性酸素により傷害されるが、その結果遺伝子の不安定が増しゲノムDNAに傷害が及び発癌に至ると推定される。今回の検討ではミトコンドリアDNAの変異が多いサンプルでは癌抑制遺伝子p53の変異が検出され、これまでの推測の一部を証明できたものと考える。このミトコンドリアDNAの傷害頻度は肝炎ウイルス感染の有無とは相関していなかった(J Gastroenterology)。最後に血清HBs抗原とHCV抗体のいずれも陰性の肝癌について検討した。ここに分類された肝癌組織においてHBV DNAの検出される症例が存在した。特に血清HBc抗体陽性の肝癌では高率にHBV DNAを検出した。HBVゲノムをHBs, HBc, HBxに分割して解析するとすべての領域が検出されるサンプルはなく、B型肝炎ウイルスがフリーで存在しているのではなくヒトゲノムに組み込まれて存在している可能性を推測するものとなった(Surgery Today)。今後、肝癌ではHBV DNAがヒトゲノムのどの領域に組み込まれているのかを明らかにし、その組み込み近傍に発癌に関与する遺伝子が存在していないか検討を進める計画である。
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