研究課題
胃粘膜に発生する腸上皮化生は分化型胃癌の前癌病変と考えられてきた。この腸上皮化生は主としてH.pyloriの感染によって起こるが、H.pyloriの除菌によって胃癌の発症率が減少するか否かを検討するためには、H.pyloriの関与がない状態においても腸上皮化生粘膜から分化型胃癌が発生するか否かを検討することが肝要である。しかしヒトにおいても動物実験モデルにおいてもH.pyloriの関与がない状態で腸上皮化生から実際に胃癌が発生するか否かはこれまで明確には示されていない。そこで、今回われわれは腸上皮化生を引き起こすトランスジェニックマウスを作成し、H.pyloriの関与なしに腸上皮化生粘膜から分化型胃癌が発生するか否かを検討した。ヒトの腸上皮化生粘膜に発現している転写因子Cdx2を胃粘膜に特異的に発現するトランスジェニックマウスを作成した。このトランスジェニックマウスの胃粘膜は完全に腸上皮化生粘膜に置き換わり、吸収上皮細胞、杯細胞、腸管内分泌細胞から構成されていた。この腸上皮化生粘膜をH.pyloriがの感染や発癌剤を用いることなく通常の食事にて経過を観察した。生後2年目には観察したトランスジェニックマウスの全例に胃粘膜に肉眼的に認められるポリープが形成された。このポリープは粘膜筋板を破り粘膜下層に達し、固有筋層を破る進行癌であった。この分化型胃癌はp53の核内蓄積やβカテニンの核内移行がみられ、実際p53やAPCの変異がシークエンスにより確かめられた。組織学的には高齢者にみられる腸上皮化生粘膜を背景としたヒトの高分化型腺癌にきわめて類似していた。この内容はCancer Researchに発表した。この分化型胃癌の発生は腸上皮化生粘膜自体が分化型胃癌の前癌病変であり、腸上皮化生が進展した胃粘膜を有するヒトにおいては除菌が成功した場合でも高度に進展した腸上皮化生粘膜の改善は一般にはむずかしく、臨床的に分化型胃癌の発生母地としで慎重な経過観察が必要であることを示している。さらにこのCdx2トランスジェニックマウスにより転写因子Cdx2による腸粘膜の分化を検討することができた。腸粘膜上皮細胞の分化には転写因子Math1が関与していることが報告されているがCdx2がこのMath1を誘導することを明らかにした。さらにCdx2は間質も胃型から腸型に変化させることがこのCdx2トランスジェニックマウスの解析により明らかになった。
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Differentiation (in press)
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