ブタ胃ムチンを免疫原として作成したモノクローナル抗体である、PGM34はムチンの酸性糖鎖を認識する可能性が示唆されていた抗体である。この抗体のエピトープ構造を決定するために、ブタ胃ムチンを出発として、アルカリ還元処理により、ムチン糖鎖(糖アルコール)を作成し、ゲル濾過法、イオン交換樹脂によるクロマトグラフィー、さらに逆相法によりHPLCによってPGM34と反応する糖鎖を精製した。2種類の糖鎖が抗体に陽性であったため、これらの糖鎖の構造決定を行った。 NMRとMALDI-TOF-MSによる解析の結果、単クローン抗体PGM34のエピトープ構造は、Fucα1-2Galβ1-4GlcNAc(6SO_3H)β-であり、硫酸基とFucの両方の基が必須であることがわかった。 PGM34を用いた免疫染色によるラット小腸粘膜病変の検討:抗ガン剤である5-Fluorouracil(5-FU)を連続5日間経口投与すると、小腸に粘膜傷害がみられる。PGM34を用いた免疫染色によって、小腸杯細胞およびその分泌粘液がはっきりと染色されるため、本抗体を用いて、5-FU投与後の小腸粘膜傷害とその回復の過程を観察した。5日間連続投与翌日にはっきりとした粘膜傷害がみられたものが、休薬3日目、6日目となるに従って急速に回復し、6日休薬では、小腸粘液量測定の結果から対照よりも粘液量が増加する結果も得られた。これらのことから、5-FUの5日間連続投与と並行投与することによって、各種抗潰瘍薬の併用投与が、5-FU投与に伴う小腸粘膜傷害の抑制効果を示すかどうかを検討した。各種H2ブロッカーの比較をしたところ、第二世代に属するラフチジンのみが有効性をしめした。またプロトンポンプ阻害剤との比較に置いても、後者は胃には有効性を示すが、小腸粘膜にはラフチジンのように傷害抑制をもたらさなかった。この研究によって、抗ガン剤とりわけフルオロウラシル系を用いて起こる化学療法の副作用を抑制するのにラフチジンが優れていることが実験的に示された。
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