腸管粘膜局所免疫装置の機能を明らかにするために、病原性大腸菌を用いた腸内細菌抗原刺激に対するIgG Fc-Binding Protein(FcBP)による防御反応をin vitroの系において解析した。ウサギ下痢原性大腸菌(RDEC-1)は抗RDEC-1ウサギIgGを介してFcBPと粘液と結合することが、FcBPに対する抗体であるK9と粘液に対する抗体であるM23を用いたELISAにて証明された。以上よりムチン中に含まれるFcBPはヒトの腸管腔内に存在し、IgGを介して有害な抗原や補体による粘膜障害に対する防御機構に極めて重要な役割を果たしていることが示唆された。 また、IgGFc結合蛋白の局在と特徴を主として免疫組織学的検討により解析した。モノクローナル抗体(K9)を用いた組織学的解析の結果、FcBPは大腸、小腸、胆嚢、胆嚢管、胆管、気管支、顎下腺ならびに子宮頚部の粘液産生細胞に発現していたが、眼球結膜においてはFcBPの発現は認められなかった。胃粘膜組織における検討では、腸上皮化生に隣接した肉眼的正常胃粘膜においてはHRP標識IgGとは反応せず、K9には弱陽性に染色される症例も一部に認められた。これとは対照的に、慢性胃炎における杯細胞様に分化した腸上皮化生をともなうムチン産生細胞においては、HRP-IgG、K9ともに全ての症例において強く染色された。さらにこの染色性は、腸上皮化生分類における完全型、不完全型いずれの場合においても同様であり、両者間に明らかな差は認められなかった。FcBPの結合能の解析では、大腸粘液においては約70-80kDにimmunoprecipitateされるバンドが認められ、これがactive FcBPと考えられ、normal mouse lgGの検討においては同様のバンドは認められなかった。鼻粘液、喀疾ならびに胆汁での検討でも同様にIgG結合能を有し、FcBPと同じ分子量に反応するバンドを検出した。以上よりFcBPは全身のムチン産生細胞を有する諸臓器に広く発現し、その粘液中において結合能を保っており、消化管のみならず外界とのバリアー機能を持つ全身の粘膜組織において防御機能を発揮していることが考えられた。 以上の成績より、本蛋白をハードカプセルに含有させたdrug delivery systemにむけての基礎的研究の実現性が可能になった。
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