研究概要 |
我々は、D4GDI(LyGDI)のC末欠失型(Δ166-201)が転移形成に促進的に働くことを既に報告してきた。一方、D4GDIは生理的にはアポトーシス細胞や炎症白血球において、N末側のAsp19,Asp55でcaspase-3やcaspase-1によりそれぞれ切断を受ける。しかし、その切断型D4GDIの機能は不明である。我々は、これら切断型のD4GDIの転移における機能を検討するために、Asp55切断型D4GDI(Δ55)を、srcでトランスフォームしたBalb/c A31-1-1細胞やmelanoma細胞に強制発現させ、転移能を調べた。その結果、Δ55は転移能を顕著に抑制することが明らかとなった。Δ55安定発現細胞では、尾静脈注射後の肺での滞留が低下し、in vivoでの腫瘍増殖速度が低下していた。また、アノイキス(細胞が細胞外基質から離脱したことにより生じるアポトーシス)感受性が増加していることが明らかになった。Δ55を一過性に過剰発現させても、やはりアノイキスが起こりやすくなった。また、A31-1-1細胞やそのトランスフォーム細胞ではアノイキス誘導後5分以内に、Δ55-D4GDIと思われるバンド(複数の抗D4GDI抗体で認識される)がウエスタン法により検出された。このバンドが、本当にΔ55-D4GDIであることはさらに確認する必要があるが、現時点では、D4GDIはアノイキス過程のごく初期にAsp55で切断を受け、細胞外基質からの細胞の離脱をアポトーシスシグナルへと変換するのに関わる分子ではないかと推測された。
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