研究概要 |
一般にシグナル伝達を理解するためには、リン酸化部位の同定が不可欠と考えられている。またヒト組織におけるシグナルを知るためにはリン酸化された分子に特異性の高い抗リン酸化抗体が必要となる。そのため我々は、Smad2,3蛋白のMAPKによりリン酸化される部位とI型TGF-β受容体によってリン酸化される部位に対する計4種類の抗Smad2,3リン酸化抗体を作製した。本研究計画に示すSmad2,3抗リン酸化抗体は、野生型Smadとリン酸化部位を潰したミュータントを哺乳類細胞に遺伝子導入し、それぞれのリン酸化の程度をウエスタンブロット法で比較検討した。その結果、これら抗体は、MAPK又はI型TGF-β受容体によってリン酸化されたSmadのみを特異的に認識していた。また抗体は、ウエスタンブロット、免疫沈降、ゲルシフトアッセイ、免疫蛍光抗体法、免疫組織化学に使用可能であった。 本計画における申請者等が行った予備的実験の結果、肝癌では、(1)TGF-β受容体やSmadには、遺伝子の変異を認めなかった。(2)Smad2はTGF-β依存性に活性化されていた。(3)しかし悪性度が強くなる程、Smad3はI型TGF-β受容体からの刺激ではなくMAPKからの刺激により活性化されており、そのことが標的遺伝子の転写制御の特異性に深く関わっているものと考察された。今後、かかる細胞においてSmad3結合蛋白がどのようにしてリン酸化されたSmad3と複合体を形成し標的遺伝子の転写を制御しているか検討する必要があると思われる。
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