研究概要 |
TGF-βのシグナル伝達機構は、活性化されたI型受容体のキナーゼによって細胞質内のSmad2およびSmad3のC端末領域がリン酸化された場合のみ(pSmad2CおよびpSmad3C)、Smad4と複合体を形成し核に移行すると考えられていた(Annu.Rev.Biochem.67,753-791,1998)。しかしながら、我々が部位特異的抗Smad2,3リン酸化抗体を用いて行った結果、少なくともSmad3はI型受容体の活性化に伴わない場合においても、増殖刺激等によるJNKあるいはp38の活性化を介して、リンカー部がリン酸化され(pSmad3L)、Smad4と多量体を形成し、核に移行していた(Am J Pathol.166:1029-39,2005,Hepatology 38:879-89,2003)。pSmad3L・Smad4複合体は、標的遺伝子の転写調節領域と結合しており、標的遺伝子であるplasminogen activator inhibitor type I(PAI-1)の転写活性を促進したが、TGF-β刺激で活性化される細胞増殖抑制因子p21^<WAF1>の発現には影響を与えなかった(Oncogene 23:7416-29,2004)。これらの結果は、MAPキナーゼ系とのクロストークを介したSmad2,3のリンカー部特異的リン酸化が、肝線維化および癌化に伴うTGF-βシグナル伝達の転換を説明し得ることを示した。
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