肝癌細胞をTroglitazone (Tro)で処理して得られたG1期細胞はMRP2 (cMOAT)の発現が著減しており、抗癌剤排泄能が低下していることが示唆された。一方、それらの細胞ではBcl-xLの発現が上昇しており、抗アポトーシス機序が作動していることも推察された。さらにS期に進むとMRP2の発現レベルは回復しており、DNA合成期における細胞死回避に寄与していることが考えられた。平成17年度は、このような細胞状態がTro特異的に生じるのか、あるいはG1期・S期の細胞に普遍的に起こるのかを明らかにするために、Pioglitazone (Pio)やCDK inhibitor (CKI)あるいはSkp2 siRNAを用いて比較した。その結果、Pioで処理した肝癌細胞ではMRP2の発現も比較的保たれており、抗癌剤との併用による有意な殺細胞増強効果は見られなかった。Troと抗癌剤の併用では、Troによる前処置よりむしろTroと抗癌剤の同時投与の方が細胞死を強く誘導することがわかった。これらPPARγリガンドと比較して、CDIやSkp2 siRNAはそれぞれ単独で肝癌細胞に細胞死を誘導可能であり、抗癌剤との併用ではその増強効果も認められた。併用のタイミングは、CKIやSkp2 siRNAで前処理する方が早期に細胞死を誘導しやすかったが、48時間後では同時投与と差がなかった。Xenograftモデルでの検討では、抗癌剤単独使用に比べてTroと抗癌剤の併用ではわずかに腫瘍増大抑制作用が増強したが、Pioでは認められなかった。以上より、少なくとも今回使用したPPARγリガンドと抗癌剤の併用では、期待した程度の殺細胞増強効果が得られないことが示唆された。その原因として、細胞周期依存性の細胞保護機構があることが推察された。一方Skp2 siRNAと抗癌剤との併用は、今後も検討の余地があると考えられた。
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